WAGYU KNOWLEDGE / 格付

A5とは何か|格付が測っているもの、測っていないもの

要点

A5は、和牛を語るときの共通言語になりました。品書きにも、包装にも、広告にも並びます。そして多くの場合、それは「いちばん美味しい肉」という意味で受け取られています。

ところが格付は、味を判定していません。作り話ではなく、A5は実在の機関が発行する実在の等級で、日本の格付の最上位に位置するのも事実です。ただ、そこに込められていると思われている意味と、実際に測っているものが、はっきり食い違っているのです。

このページでは、規格そのものと格付の統計そのものを使って、A5が何を測り、何を測っていないのかを整理します。当媒体は和牛・焼肉店の選定を公開しており、掲載する店・生産者から金銭を受け取っていません。等級を実際より立派に見せる理由がない立場から書いています。

先に立場を書いておきます。サシが悪いという話ではありません。問題は等級そのものではなく、等級だけが見える状態になってしまったことです。1つの数字が唯一の目印になると、その数字が拾っていないものが——支払う側にとっても——見えなくなります。

A5は1つの評価ではありません——2つです

牛の枝肉は、公益社団法人日本食肉格付協会という第三者機関が、牛枝肉取引規格にもとづいて格付します。1頭の枝肉には独立した2つの評価が付き、それが並べて表示されます。

つまり「A5」とは、歩留の最上位区分と肉質の最上位区分、2つの基準を超えたという意味です。ラベルの中身はそれで全部です。

そこに含まれていないのが、どう食べられるかの評価です。格付のために枝肉を食べる人はいません。調理したサンプルも、試食のパネルも、香りの評価もありません。これは同協会への批判ではありません。この仕組みは生産者と流通のあいだの取引を公正で一貫したものにするために作られており、その仕事は果たしています。問題が起きるのは、取引のための規格が、味の約束として流通しはじめたときです。

「A」に味の項目はありません——式で確かめられます

格付をめぐる説明の多くは、読み手が自分で検算できません。ここは例外です。歩留等級は公表された計算式で決まります。

歩留基準値 = 67.37
 + 0.130 × 胸最長筋面積(cm2
 + 0.667 × 「ばら」の厚さ(cm)
 − 0.025 × 冷と体重量(半丸枝肉・kg)
 − 0.896 × 皮下脂肪の厚さ(cm)
※肉用種(黒毛和種・褐毛和種・日本短角種・無角和種およびその交雑牛)は 2.049 を加算

A = 72以上 | B = 69以上72未満 | C = 69未満

入っているのは面積・厚さ・重量・厚さの4つだけです。味・香り・柔らかさ・脂の質にあたる変数は、この式のどこにも存在しません。食べたときのことを記述しようとしていないからです。この式が予測しているのは枝肉から何キロの肉が取れるかという、商取引上の問いです。

ですから「アルファベットが品質で、数字が等級」といった説明——あるいは2つとも品質の指標だとする説明——は、解釈の違いではありません。計算の上で成り立ちません。アルファベットは経済的な指標で、たまたま品質の指標の隣に印字されているだけです。

「5」は実質、サシの閾値です

肉質等級には4つの小項目があり、最も低いものが採用されます。ただし4つは同じ精度で測られているわけではありません。色沢・締まりときめ・脂肪の色沢と質の3つは、標準見本と照らして幅のある区分で評価されます。細かい数値の尺度を持っているのは脂肪交雑だけで、それが No.1 から No.12 までのBMS(牛脂肪交雑基準)です。

肉質等級BMS
5No.8 〜 No.12
4No.5 〜 No.7
3No.3 〜 No.4

良質な和牛では、残る3項目が足を引っ張るところまで低くなることは多くありません。そのため「A5」の数字は、実務上はサシの閾値として働きます。A5が教えてくれるのはBMS No.8以上に届いたということだけで、その先のどこに着地したかは分かりません。No.8もNo.12も、同じ「5」です。

A5はもう珍しくありません——今は標準的な結果です

格付の統計は毎月公表されています。同協会の公表値では、2026年5月時点で次のとおりです。

そしてこれは、昔からの状態ではありません。

和牛去勢のA5比率
200111.8%
201840.5%
202259.7%
2026年5月76.6%

基準が緩められたわけではありません。サシを出す方向に育種が世代を重ねて成功し続けた結果、閾値は動かないまま、牛の側がそれを追い越したのです。1996年からの全系列と頭数、出典ファイルまでは A5和牛は希少なのか|日本の格付データ30年分が示す答え に置いています。

市場の側は既に反応しています。東京市場のA5とA4の枝肉価格差は、2024年5月時点でおよそ6.5%まで縮まりました。2026年1月にはA5の価格が11年ぶりの安値をつけています。4分の3が持っているラベルが、高い付加価値を保ち続けることはできません。

正確に言えば、A5が悪くなったのではありません。A5が「選び分ける力」を失ったのです。かつては ふるい でした。今は 出席簿 に近いものになっています。

格付が測っていないもの

研究が食味と結びつけている性質は、ほとんど例外なく、格付の対象になっていません。

農業・食品産業技術総合研究機構の元山・佐々木・渡邊らの研究では、黒毛和種の脂肪はオレイン酸が平均およそ52.9%、融点は20〜21℃前後と報告されています。良い和牛の脂が、重くまとわりつかず軽く感じられる理由がここにあります。同じ一連の研究では、和牛特有の香気成分はと畜の時点ではほとんど存在せず、貯蔵中の酸素との接触によって生成し、80℃前後で最も強く立つことも示されています。すき焼きとしゃぶしゃぶの温度帯です。

脂肪酸組成、融点、香りの生成、血統、肥育期間、扱い、熟成——いずれも等級には含まれていません。そしてこの隔たりは理屈の上の話ではありません。農林水産省が公表した資料では、同じBMS9の枝肉で、粗脂肪が35.3%から64.6%まで分布していました。同じ表示のまま、実際の脂の量が2倍近く違うということです。

だから買い手は、等級を順位として扱いません。当媒体が接する範囲でも、経験を積んだ買い手は、血統・脂・扱いが良ければA5よりA4の枝肉を迷わず選びます。そしてその基準で仕入れる店は、アルファベットと数字だけで買う店より、安く、良い肉を出していることが少なくありません。

言い添えておくと、サシは敵ではありません。筋肉内脂肪が食味に寄与することを示す研究もあります。疑わしいのは、1から5の尺度に隠れている前提——関係が一直線で、多いほど良い——の方です。

食卓ではそうなりません。脂はある点までは味を運び、その点を過ぎるとほかのすべてを押しのけはじめます。どこがその点かは、部位・厚み・火の入れ方・出される量によって動きます。最大の量ではなく、適した量があるのです。上へ数えることしかできない梯子は、それを表現できません。その場でいちばんサシの多い一枚が、料理人の欲しい一枚とは限らないのです。

日本で最も格の高い牛肉は、等級より血統を上に置いています

等級が日本の序列の頂点ではないことを示す証拠は、日本で最も名の知られた銘柄の中にあります。

松阪牛には特産松阪牛という最上位の区分があり、松阪牛全体のおよそ4%にあたります。農林水産省の地理的表示(GI)にも登録されています。その定義は次のとおりです。

もう一度読み返して、そこに無いものに気づいてください。等級の要件が1つもありません。A5でも、A4でも、BMSの下限でもない。日本で最も由緒ある牛肉の呼称は、どこから来た牛かどれだけの時間をかけたかだけで定義されています。

これが、この記事の中心にある話です。日本の生産者が自分たちの最上の牛肉を区別しようとしたとき、手を伸ばしたのは格付の記号ではなく血統でした。等級はその後から来て、別のものを測っています。

ここから、多くの人が戸惑う点も説明がつきます。銘柄名は、思われているほど情報量を持っていません。優れた種雄牛は全国の農場に導入されるため、別の銘柄が付いた2枚のステーキが、血の上では近いということが起こります。銘柄は住所であり、血統が中身です。

日本はすでにサシ一辺倒の先へ動いています

ここまでを「外からの異論」と読むこともできますが、実際には現在の日本の政策に近い話です。

農林水産省は公表資料の中で、消費者ニーズに応じた肉用牛生産にはサシ以外の要素——飼料効率、繁殖性、脂肪の質、きめ細かなサシ——への着目が要ると述べています。あわせて、次のような動きがあります。

味とは別の観点からの論点もあります。育種がサシに強く集中した結果、用いられる種雄牛も少数に集中しました。黒毛和種の登録雌牛の近交係数は、1986年生まれの4.8%から2020年生まれの9.7%へ上昇し、上位15頭の種雄牛の子が市場取引のおよそ半分を占めるとされます。農林水産省は、これに伴う死産・受胎率の低下・発育不良のリスクを資料に記しています。1つの物差しを数十年たどった結果、和牛そのものの遺伝的な幅が狭まりました。

では、何を見ればよいのか

別の数字ではありません。A5を別の1つの指標に置き換えても、同じ失敗を繰り返すだけです。実際、代替の指標はいくつも提案されていますが、標準になったものはありません。

当媒体が採っているのは、1つの数値にまとめないこと——別のものを別のまま見ることです。以下が、選定で実際に見ている軸です。

選考は店舗への事前通告を行わず、飲食にかかる費用は選考委員が負担しています。掲載を金銭で購入することはできません。選定で用いる基準と、格付が取りこぼす部分をどう扱うかは 選定基準 に記載しています。

注文するとき——食べたいものに合わせる

ここまでの話は、A5を避けるという意味ではありません。等級を順位ではなく、1つの変数として扱うという意味です。実際の卓で役に立つ問いは「いちばん上の等級はどれか」ではなく、「どんな味であってほしいか」です。

店が中身で仕入れているかを測る、簡単な方法があります。その牛がどこから来たのかを尋ねること。選んで買っている厨房なら、産地・生産者・血統まで答えられます。「A5です」は、証明書についての答えであって、牛についての答えではありません。

まとめ

A5とは、一度も食べていない第三者の格付員によって、歩留の最上位区分と肉質の最上位区分を超えたと判定されたという意味です。アルファベットは味の項目を1つも含まない歩留の計算であり、数字は実質サシの閾値で、その中に広い幅を抱えています。そして今、和牛去勢の76.6%がそれを通過します。

これはA5の肉が良くないという話ではありません。素晴らしいものは数多くあります。意味しているのは、このラベルが順位ではなく下限になったということ——そして日本で和牛を食べる店を選ぶとき、証明書の記号がその場でいちばん情報量の少ないものだということです。

もうひとつ、商売から最も遠い理由を書いておきます。味わうことは、いくらか解像度の問題です。区別できることが増えるほど、目の前にあるものを多く受け取れます。脂は軽く感じられるべきだと知っている人、その牛がどの血を継いでいるかを知っている人、この部位がこの厚みで出されている理由を知っている人は、単に詳しいのではなく、同じ一皿からより多くを得ています。1文字と1桁にすべてを畳み込むことへの、これが正直な反論です。等級が嘘をつくのではありません。等級が、見ることをやめさせるのです。

等級の先を見ている店

A5が4頭に3頭に届く時代に、店の力量はいっそう分かれます。同じ等級の枝肉から、どの部位をどう選び、どう寝かせ、どう焼くか——そこは数字に出ません。JAPAN’S BEST WAGYU セレクション は、選考委員が実際に来店し、費用を自ら負担して選定した和牛・焼肉の名店です。掲載される店舗から金銭は受け取っておりません。

出典

文責 鳥山貴之(JAPAN’S BEST WAGYU 主宰・選定委員長/和牛ジャーナル)
編集 金子祐生(共同運営・編集長)
本媒体は、掲載する店舗・生産者・企業から金銭を一切受け取っておりません。選考は店舗への事前通告を行わず、飲食にかかる費用は選考委員が負担しています。また、牛肉の販売は行っておりません。
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