「A5ランク」という言葉は、高級焼肉店のメニューやスーパーの売り場で頻繁に目にします。しかし、JAPAN’S BEST WAGYU の選考委員は、店舗を選ぶときに「A5を使っているか」だけを見ているわけではありません。むしろ、A5という記号の奥にある本質を見極めることこそが、本当の選定です。この記事では、A5ランクの仕組みと、私たちが等級だけで選ばない理由を解説します。
A5とは何か——格付けの仕組み
日本の牛肉の格付けは、公益社団法人 日本食肉格付協会(JMGA)が定めた基準に従って行われます。次の2つの要素の組み合わせで決まります。
- アルファベット(A〜C)= 歩留等級:1頭の枝肉から取れる食用部分の量
- 数字(1〜5)= 肉質等級:肉そのものの質
この組み合わせで、最高の「A5」から最低の「C1」まで、計15段階で評価されます。
肉質等級の4項目
肉質等級は、以下の4項目を総合的に評価して決まります。重要な点は、4項目のうち最も低い項目の評価がそのまま肉質等級になるということです。
- 脂肪交雑(サシの入り具合):BMS No.という指標で12段階評価
- 肉の色沢:色とツヤ
- 肉のしまりときめ:食感の質
- 脂肪の色沢と質:脂の白さ・上品さ
つまりA5とは、「歩留まりが良く、肉質4項目すべてが最高レベル」を意味します。
A5の落とし穴——格付けが評価しないもの
ここからが、本記事の核心です。A5の格付けは、上記の4項目で決まりますが、美味しさそのものは直接評価していません。とくに次の要素は格付けに含まれません。
- 赤身の旨味の濃さ:サシの量で評価されるため、赤身そのものの味は評価軸にない
- 香り:和牛特有の甘い香りも評価対象外
- 後味のキレ:脂が重たいか軽いかは数値化されない
- 調理後の美味しさ:あくまで枝肉の状態での評価
つまり、A5は「サシの入った肉の最高峰」ではあっても、「万人にとって最も美味しい肉」とは限らないのです。
プロが見る「等級以外」の指標
JAPAN’S BEST WAGYU の選考委員が店舗を評価するとき、肉そのものよりも、店主の目利きと仕入れ哲学を重視します。
1. 産地・血統への理解
「A5の肉を仕入れている」だけでは、店主の知見は分かりません。「どの産地の、どの生産者の、どの血統の肉か」を語れる店主こそが、確かな目利きです。
2. 部位ごとの選定眼
同じA5でも、部位によって個性は大きく異なります。ロースには適していてもタンには向かない肉、サシは多いが香りが弱い肉——こうした違いを見抜き、最適な肉を選び抜く力が、店の格を決めます。
3. 「あえてA4を選ぶ」哲学
近年、赤身の旨味を重視する流れから、あえてA4ランクの肉を使う名店が増えています。「等級ではなく、味で選ぶ」というこの姿勢は、A5至上主義からの脱却を象徴しています。
食べ手としての和牛の楽しみ方
等級の知識を持つことは、肉選びの幅を広げる第一歩です。同時に、等級だけに囚われない柔軟さも、和牛をより深く楽しむために大切です。
- サシが好きな日:A5の霜降りで、口溶けを楽しむ
- 赤身の旨味を求める日:A4や別品種で、深い味わいを
- 軽く食べたい日:日本短角種や赤牛で、ヘルシーに
このように、目的やコンディションに合わせて和牛を選べるようになると、外食の楽しみが格段に深くなります。
A5を出す店が必ずしも名店ではない理由
選考委員の本音を言えば、「A5を全面に押し出す店」よりも、「使う肉について多くを語らないが、出てくる一皿一皿に説得力のある店」のほうが、本当に信頼できることが多いのです。
等級は、肉を選ぶ「ヒント」にはなりますが、「答え」ではありません。最終的な答えは、店主の哲学と、目の前の一皿の中にあります。
まとめ
A5ランクは「サシが豊富な肉の最高評価」であって、「美味しさの最高評価」ではありません。等級の仕組みを理解した上で、自分の好みに合った肉を選び、店主の哲学を感じ取れる店を訪れることが、上質な和牛体験につながります。JAPAN’S BEST WAGYU 2026 ランキング では、等級ではなく本質で選んだ50店舗を発表しています。和牛とは何か の記事も併せてどうぞ。